「女性のいない民主主義」を読んで

書評

今日は前田健太郎さんの『女性のいない民主主義』(2019年、岩波新書)について読書会をしたので、その読書会で考えたことを書きます!

争点としてのジェンダーからジェンダーの視点へ

この本の良さを一言で言うと「争点としてのジェンダーからジェンダーの視点へ」の転換をはかっていることです。

これまでは、「今の日本の政治がかかえる問題は財政や生活保障などさまざまあり、その中の一つにジェンダーの問題があります」というような考え方が一般的でした。

しかし、この本は「財政も生活保障も、政治の仕組みも、民主主義のあり方も、全部ジェンダーの視点で考え直してみませんか?」という立場をとっています。

「はじめに」では以下の問題提起がなされています。

「そもそも、男性の支配が行われているのにもかかわらず、この日本という国が民主主義の国だとされているのは、なぜだろうか」(p.ⅱ)

その答えとして筆者は以下のように述べています。

「筆者も含めた多くの政治学者は、女性がいない政治の世界に慣れきってしまっていたようだ」(p.ⅱ)

「男性にとって、男女の不平等に関わる問題は優先順位が低い。だからこそ、それに関する研究成果は、政治学の教科書から排除されているのであろう。いくら客観性や価値中立性を持つ「政治の科学」を標榜したとしても、それはいわば「男性の政治学」にすぎない、と。」(p.ⅴ)

本当に日本の政治は男女不平等なのか?

日本の政治家で女性の比率が少ないことは有名なことです。しかし、クオーター制(定員の4分の1を女性にする)には多くの反対があります。「能力のない女性も政治家になってしまう」「立候補する女性が少ないから仕方がない」などです。

そういった考え方もある中、「女性に参政権はあっても、女性の議員の割合が低い、つまり女性の意見が反映されていないこの状態は民主主義と呼んでいいのか?」と筆者は問いかけています。

「代表」には2つの考え方があります。

ひとつは「実質的代表」で、有権者の意見の代表です。みんなからえらばれていたら代表としてふさわしい、という考え方です。

もうひとつは「描写的代表」で、社会的な属性の代表です。もちろん、女性というだけで、全員の女性の意見を反映できるわけではありません。

しかし、女性に関する争点で争点になっていない争点はたくさんあります。女性議員が増えた方が、争点になっていない争点をもっと取り上げることができるのではないか、と筆者は述べています。

これに関連した話で大事だなと思ったのは「権力の三つの次元」という話です。

三つというのは、①多数決の行方を左右する明示的な行動の変化をもたらす権力、②人々に不満があっても争点化を防ぐ権力、③不満を抑制し争点に気づかせない権力、です。

もともと選択的夫婦別姓や同性婚、緊急避妊薬は政治の争点になっていませんでした。

そして、他にもまだ争点にすらなっていない問題があります。

女性の議員が少ないのはなぜか?どうすればいいか?

実はこの本は女性の議員を増やす方法などは具体的に書いていません。

「これまでの政治学の議論にジェンダーの視点を取り入れる」ことが最大の目的だからです。しかし、ヒントはたくさんあります。

女性議員を増やすための視点①ダブル・バインド

優しく、包括力のある「女性らしさ」という規範を自分のアイデンティティとしている女性は、積極性があり競争的な「政治家らしさ(=男性らしさ)」を求められると「私にはできない」と思ってしまう傾向があります。

政治家らしくふるまおうとすると「えらそうだ」と言われ、女性らしくふるまおうとすると政治家らしくなくなってしまう。

男性の政治家を見て「私はあのようになれない」と思ってしまう。

筆者は以上のことから「男女を差別しないはずの組織において、大きな男女の不平等が生まれることになる」と論じています。

この現状の打開策としての私の提案は、女性議員のロールモデルを増やすことです。

すでに、若い女性議員は、割合は少なくても複数人います。

例えば元アイドルで、渋谷区議会議員の橋本ゆきさんは「アイドルも政治家も、自分の芯を貫くこと、応援してくれている人のために頑張ることは同じ!」と精力的に活動しています。

もちろん、そのロールモデルが見えにくいのは女性の議員がまだ少ない(しかも大変そうだ)からなのですが…。

女性議員を増やすための視点②多くの人がジェンダーについて熟議する

これはこの本に書いていないことですが、この本を読んで読書会をして思ったのは、ジェンダーの考え方はそれぞれ違っている、だからこそ(討論ではなく)熟議が必要だということです。

そもそも女性議員を増やすべきなのか?ということから意見が違います。

みんな違う意見を持っているからこそジェンダーの議論はTwitterには向きません。

ジェンダー平等は誰のためのものなのか?ジェンダー平等はなぜ必要か?ということは双方向な対話の中で話し合って考えを深めることが大事なのだと思います。

女性議員を増やすための視点③女性に自信を

これもこの本に書いていないことですが、女性の国会議員を増やすためには、その土壌として女性の地方議員も増やす必要があります。

昨年都議選(北区)に出馬した佐藤ことさんに「立候補することをためらわなかったか?」と聞いたところ、「政治家はもっと優秀な人がやるものだと思っていたけどそうではなくて、変えたいっていう課題意識の強さが大事なんじゃないかと思います。」と教えてくれました。女性の方が能力に自信がなく、立候補に躊躇しやすいことはあるのではないでしょうか。

この本にも関連する研究が紹介されています。

「アメリカで行われた研究によれば、ある地区の共和党支部が党員集会に出席した党員に対して立候補への関心を訪ねるアンケートを実施した際、一部の回答者には「選挙では厳しい競争を勝ち抜かなければならない」という趣旨の注意書きを添えたところ、何らかの関心を示す女性の回答者の割合が大きく落ち込んだという(注意書き無しの場合は20%、有りの場合は5%)。このような効果は、男性には見られなかった(同回答33%、31%)。」

この結果は「女性は女性らしく、他人と表立って競争するのではなく、協調するべきだ」という規範も影響していると思いますが、立候補への自信を失いやすいということは言えるでしょう。

みなさんは政治の世界におけるジェンダーの問題についてどのようにかんがえますか?

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