「社会的結束」を目指すカナダの多文化共生教育とは?

主権者教育

今日は坪田益美の論文を3本読み学んだこと、考えたことを簡単にまとめます。

≪読んだ論文≫
・坪田益美(2009)「多元社会カナダにおける社会的結束に取り組むシティズンシップ教育―アルバータ州社会科の「多様性の調整」に着目して―」日本社会科教育学会『社会科教育研究』第108号、pp.44-57
・坪田益美(2012)「「社会的結束」に取り組むカナダ・アルバータ州の社会科カリキュラムの構造―「深い多様性」の尊重と「多様性の調整」に着目して―」全国社会科教育学会『社会科研究』第77号、pp.13-24
・坪田益美(2015)「多文化共生社会に向けた社会科の単元構成の枠組み―”Issues- Forcused Approach”の可能性―」日本社会科教育学会『社会科教育研究』第125号、p.84-95

「社会的結束」とは何か?

アメリカでは多様性と統合の両立を「多様の統一」と表現していますが、カナダはよりゆるやかなまとまりを目指す観点から「社会的結束」を重視し、シティズンシップ教育の目標にしています。

「社会的結束」という言葉には「共同体は目標や課題を共有し、一人一人が参加する共同作業の中で常に創り変えて行くものである」という考え方があります(坪田、2009)。

しかし「社会的結束とは平和や平穏に満ちたユートピアでは」ありません(マックスウェル、1996)。

葛藤が紛争となる前に、社会の構成員一人ひとりが適切に対処する「多様性の調整」が必要となります。

そのほかにも「深い多様性の尊重」や「結束への積極的な意思」の涵養が必要とされています

カナダでは「多様性の調整」をどのように学習しているか?

カナダのアルバータ州の社会科カリキュラムでは毎年3つの目標「深い多様性の尊重」「結束への積極的な意思」「多様性の調整」を達成するための学習が構成されています。

幼稚園の時からこの考え方を学ぶのはよいなと思いました。

また、学年によって一年間を通して考察すべき「Key Issue」が展開されています。

10学年では「グローバル化」、11学年では「ナショナリズム」、12学年では「イデオロギー」に関するIssueが取り上げられ(例:私たちはどこまでグローバル化を容認すべきか?)、そのIssueについて5つの段階で学習が組織されます。

第一段階:争点の理解
第二段階:問題の歴史的背景の認識
第三段階:問題の深刻さや重要性の考察
第四段階:市民としての意思決定
第五段階:総合的な追及

この学習の特筆すべきポイントは、Issueに焦点を当てて探究的に学習することで解決のためにすべきことは何か主体的に考える姿勢につながること、主張よりも他者理解を優先させることだと論文を読んで思いました。

「社会的結束」を当然なすべき行為として教え込んでもいいのか?

坪田(2015)が「「社会的結束」は、「共通価値」や「共通の目標」の共有が重要な要素となる。それゆえ、偏ったナショナリズムに利用されかねない」と述べているように、社会的結束のための学習は子どもの価値観を狭めてしまう危険性を持っているのではないかと思います。

日本でも戦前、社会科は修身(道徳のような教科)に吸収され、国のために尽くす国民を育てるための科目になりました。

だからこそ、単純な多数決原理での決定ではない「多様性の調整」が求められるのではないでしょうか。

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